(*本記事は2025年2月5日時点の情報に基づいて執筆されています。)
欧州連合(EU)の成り立ち、変遷
昨年来の欧州各国の動きから、欧州が大きなターニングポイントを迎えていることが分かる。特に欧州の政治、経済、環境、移民などの課題は深刻な状況で国民感情が大きく動き、選挙結果や消費行動に現れてきています。これらを紐解きながら、今後の欧州の方向性を考えていく。
1993年に正式に発足した欧州連合(EU)は、通貨統合や単一市場の拡大を進め、政治・経済の安定を目指してきた。当時冷戦末期とはいえ東西冷戦の中、ヨーロッパは国体を保ちながら連合体を形成することでこれに対応し、発展を目指してきた。
しかし、統合から30年以上が経過し、現在、その体制にほころびが見え始めている。移民問題、経済格差、環境政策、さらにはウクライナ戦争をめぐる対応の違いなど、EU加盟国の間で意見の対立が顕著になっている。
2025年には欧州各国で数多くの国政選挙が予定されている。ドイツ、ポーランド、チェコ、アイルランド、ルーマニアなど、主要国での選挙結果は、EUの今後の方向性を大きく左右する可能性がある。欧州懐疑派の台頭や極右勢力の伸長が続くのか、それとも欧州統合を推進する勢力が巻き返すのか──2025年は、EUの未来を占う重要な年となることは必至だ。ここでは、各国の選挙日程とその政治的背景を分析し、欧州が進むべき道を探っていく。
1,ヨーロッパの右傾化
近年、ヨーロッパでは右派勢力の台頭が顕著になっている。経済不安や移民問題への不満が広がる中、伝統的な中道勢力は支持を失い、強硬な政策を掲げる右派政党が勢力を拡大している。
ドイツでは極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が支持を伸ばし、地方選挙で躍進している。特に旧東ドイツ地域での支持率は高く、2025年2月23日に実施予定の連邦議会選挙では連邦レベルでの影響力を増す可能性がある。
フランスでは、マクロン大統領の支持率が低迷する中、極右「国民連合(RN)」のマリーヌ・ルペン氏が次期大統領選の有力候補として浮上している。フランス憲法の関係で、直ちに選挙が行われることはないが、9月以降にフランスでも総選挙が行われる可能性が高く、国民連合がさらに議席数を伸ばすことが予想されている。
イタリアでは、2022年に誕生したメローニ首相の右派政権が引き続き強硬な移民政策を展開し、国民の支持を維持している。
これらの動向は、EU全体の政策にも影響を与え、統合路線の見直しや移民政策の厳格化を加速させる可能性がある。
2,揺らぐ欧州の環境意識──経済悪化がもたらす変化
かつて環境政策の先駆者として世界をリードしてきたヨーロッパだが、近年、その姿勢に変化が見られる。脱炭素社会の実現に向けてEUは厳格な環境規制を導入してきたが、昨今の経済環境の悪化を受けて、これらの政策にブレーキをかけるべきだとする声が強まっている。
特にエネルギー価格の高騰やインフレが深刻化する中、企業や労働者からは環境規制による負担を懸念する意見が増えている。ドイツでは再生可能エネルギーへの急速な移行が産業競争力の低下を招くとの批判が出ており、フランスでは農業分野での環境規制に対する反発が広がっている。イタリアではエネルギー政策の現実路線への転換が議論され、ポーランドでは石炭産業を守る動きが続いている。
こうした状況の中で、EUの環境政策が必ずしもEUを豊かにするものかどうか、疑問府が出てきており今後も現在の路線を維持できるのかは不透明だ。持続可能な社会の実現と経済成長のバランスをどのように取るのか、ヨーロッパは新たな選択を迫られている。
3,EV戦略の誤算──ドイツ自動車産業を襲うリストラの嵐
ドイツは「気候変動対策のリーダー」として鼻息荒くEV(電気自動車)政策を推し進めてきた。欧州連合(EU)もこれを後押しし、2035年までにガソリン車の新車販売を禁止する方針を掲げた。しかし、その結果は散々なもので、世界のEV市場は中国メーカーの圧勝となり、ドイツをはじめとする欧州自動車産業は苦境に立たされている。
中国は早くからEVの大量生産に着手し、政府の補助金や豊富な資源、低い電力コストなどから低コストのバッテリー技術を武器に、BYDをはじめとするメーカーが世界市場を席巻している。一方、ドイツのフォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツ、BMWといった伝統的メーカーは、EVへの転換に巨額の投資を行ったものの、価格競争力と技術面で中国勢に後れを取った。その結果、需要の低迷やコスト削減の必要性から、大規模なリストラが相次いでいる。
今や、ドイツのEV政策は「自動車産業を守るどころか破壊するものだった」との批判が強まっている。欧州はこのままEV一本化の方針を続けるのか、それとも現実的な見直しを図るのか、今後の動きが注目される。
4,EUの移民政策とその影響──選挙の争点として浮上
欧州連合(EU)は長年にわたり、移民を受け入れる政策を推進してきた。これは人道的な観点に加え、労働力不足の解消や経済成長の促進を目的としたものだった。
また、EUが掲げる「連帯」と「助け合いの精神」に基づく理念でもあり、紛争や貧困に苦しむ人々を受け入れる姿勢を示してきた。しかし、その結果、文化・宗教・生活習慣の異なる民族を大量に迎え入れることとなり、各国で社会的な摩擦が生じている。
特に2015年の難民危機以降、EU各国への移民流入が急増し、統合政策の難しさが浮き彫りとなった。ドイツやフランスでは移民コミュニティと地元住民の対立が深まり、一部の都市では治安の悪化が問題視されている。イタリアやスペインでは不法移民の流入が増加し、政治的な緊張が高まっている。これに伴い、各国で移民関連の犯罪率が上昇したとの報告もあり、移民政策の見直しを求める声が強まっている。
このような状況を受け、2025年に予定される各国の国政選挙では、移民政策が大きな争点となる見込みだ。EU全体として今後も移民受け入れを継続するのか、それとも規制を強化するのか、各国の選択が欧州の未来を大きく左右することになるだろう。
5,岐路に立つEU──2025年選挙が示す未来
以上に述べてきたように、近年の欧州では、移民政策の混乱、環境政策の見直し、右派勢力の台頭、EV戦略の誤算など、これまでEUが推し進めてきた枠組みにほころびが見え始めている。統合の理念のもとに進められてきた政策が、経済や社会の実情と乖離し、多くの国で不満が高まっているのが現状だ。
2025年にはドイツ、フランス、イタリア、ポーランドをはじめ、多くのEU加盟国で国政選挙が予定されており、その結果はEUの今後を大きく左右することになる。特に、移民規制の強化や環境政策の修正、産業政策の見直しといった争点が各国の選挙でどのように扱われるのかは、EU全体の方向性を占う上で極めて重要だ。
これまでの統合路線が維持されるのか、それとも各国が独自の政策へとシフトするのか──2025年の選挙はEUにとって重要な試金石となる。選挙結果とその後の政策の変化を注意深く見守る必要がある。
参考:2025年主な国政選挙カレンダー
1月
- クロアチア大統領選挙(決選投票):1月12日に実施され、現職のゾラン・ミラノビッチ大統領が再選されました。
2月
- リヒテンシュタイン議会選挙:2月9日に予定されています。
- コソボ議会選挙:2月16日までに実施予定です。
- ドイツ連邦議会選挙:2月23日に予定されています。
3月
- ドイツ・ハンブルク州議会選挙:3月2日に予定されています。
5月
- アルバニア議会選挙:5月11日に予定されています。
- ポーランド大統領選挙:5月中に実施予定です。
7月
- モルドバ議会選挙:7月11日までに実施予定です。
9月
- ノルウェー議会選挙:9月中に実施予定です。
10月
- チェコ議会選挙:10月中に実施予定です。
- アイルランド大統領選挙:10月中に実施予定です。
日程未定
- ルーマニア大統領選挙:2025年内に実施予定ですが、具体的な日程は未定です。