高市発言は単なる引き金。中国が隠したい「台湾地位未定論」という不都合な真実

日本政治

中国「サンフランシスコ条約無効」論の致命的矛盾 —— 台湾を欲するあまり、自ら「歴史のブーメラン」を浴び、ロシアの領土まで否定する暴走の末路


【導入】 歴史を書き換えようとする「戦狼」の叫び

駐日中国大使館の公式X(旧Twitter)アカウントが放った、ある投稿が波紋を広げています。 「サンフランシスコ平和条約は不法かつ無効である」 日本の主権回復と戦後国際秩序の基盤となった条約を、真っ向から否定するこの発言。きっかけは、日本の政治家による「台湾の法的地位は未定である」という指摘への反発でした。

しかし、この中国政府の主張を冷静に紐解いていくと、そこには恐るべき「論理の破綻」が隠されています。彼らが「条約は無効だ」と叫べば叫ぶほど、本来彼らが最も恐れる「台湾は日本の領土である」という結論が導き出され、さらには盟友であるロシアの実効支配さえも根底から覆してしまうのです。

なぜ中国は、自らの首を絞めるような主張を始めたのか? そして、その暴走が招く「パンドラの箱」の中身とは? 今回は、感情論を排し、国際法と歴史的事実、そして冷徹な地政学的視点から、この問題の深層を完全解剖します。


第1章:そもそも「サンフランシスコ平和条約」とは何か?

議論の前提として、この条約が持つ意味を再確認しましょう。 1951年に署名され、翌52年に発効したサンフランシスコ平和条約は、日本が第二次世界大戦の敗戦国としての立場から脱却し、国際社会に復帰するための「戸籍」のようなものです。

この条約の中で、日本は朝鮮半島の独立を認め、台湾や千島列島などの権利を放棄しました。現在の日本の国境線と安全保障(日米安保体制)は、すべてこの条約の上に成り立っています。中国がこれを「無効」と言うことは、戦後のアジア太平洋の秩序そのものを「インチキだ」と言うに等しい行為です。

中国側の言い分はこうです。「我々(中華人民共和国)はこの会議に招かれなかった。当事者不在で勝手に決められた条約になど拘束されない」。 一見、もっともらしく聞こえるこの主張ですが、歴史の時計を巻き戻すと、最初の大きな嘘が見えてきます。


第2章:歴史のファクトチェック —— 1945年の勝者は誰か?

中国共産党は「我々こそが反ファシスト戦争の勝者であり、戦勝国だ」と主張し、国連常任理事国の座に座っています。しかし、ここに根本的なトリックがあります。

1. 「中華人民共和国」は当時存在しなかった

第二次世界大戦が終わったのは1945年。日本が降伏文書に調印した相手、つまり「戦勝国」としての中国は、蒋介石率いる**「中華民国(国民党政権)」**でした。 カイロ会談でルーズベルトやチャーチルと並んで写真を撮ったのも蒋介石です。現在の中国政府(中華人民共和国)が建国されたのは1949年。つまり、戦争中には影も形もなかった(あるいは一地方勢力に過ぎなかった)組織が、後から「勝ったのは俺たちだ」と歴史を上書きしているのです。

2. なぜ講和会議に呼ばれなかったのか

では、なぜ1951年の講和会議に「中国(国民党)」が呼ばれなかったのでしょうか。それは、当時のアメリカとイギリスの対立によるものです。 アメリカは「台湾に逃れた国民党こそが正当政府だ」とし、イギリスは「大陸を支配した共産党を呼ぶべきだ」と主張しました。この板挟みになった主催国アメリカは、苦肉の策として「どちらの中国も招待しない」という決定を下しました。 つまり、「排除された」のではなく、「内戦分裂中につき代表者を特定できなかった」というのが真相です。

中国共産党が主張する「政府承継(前の政府の権利をすべて引き継ぐ)」という論理を使うにしても、実際に日本と戦い、勝利に貢献したのは国民党軍です。この歴史的事実を無視して「条約無効」を叫ぶことは、自らの正当性の根拠さえも危うくする諸刃の剣なのです。


第3章:致命的なパラドックス —— 「条約無効」なら台湾は日本のもの?

ここからが本稿の核心です。 中国が「サンフランシスコ平和条約は無効だ」と主張することで発生する、国際法上の強烈なパラドックス(背理法)について解説します。

1. 「放棄」が無効になる

日本が台湾に対する「すべての権利、権原及び請求権」を放棄したのは、サンフランシスコ平和条約の第2条(b)項においてです。 もし、中国の主張通り「この条約が無効」であるならば、当然、この第2条の効力も消滅します。 するとどうなるか? 日本による「台湾の放棄」という法的行為自体が行われなかったことになります。

2. 時計の針は1945年以前に戻る

条約が無効なら、台湾の法的地位は戦争終結前の状態に戻ります。つまり、**「台湾は法的に大日本帝国の領土のままである」**という結論にならざるを得ないのです。

「台湾は中国の一部だ」と主張したいがために条約を否定した結果、論理的には「台湾は日本のもの」という、中国にとって最悪の結論を導き出してしまいます。これが国際法のロジックです。

3. 中国の苦しい言い訳

中国はこの矛盾を避けるため、「カイロ宣言(1943年)やポツダム宣言(1945年)で返還は決まっていた」と主張します。しかし、国際法において「宣言」はあくまで政治的な方針表明に過ぎず、領土の最終的な処分は「条約」によって確定するのが常識です。 「条約より宣言が優先される」という中国独自のルールは、国際社会では通用しません。


第4章:北のパンドラの箱 —— ロシアを巻き込む「領土消滅」の危機

この矛盾は、台湾だけに留まりません。ユーザー様の鋭い指摘にもあった通り、北方、つまりロシア(旧ソ連)との関係にも飛び火します。

サンフランシスコ平和条約第2条(c)項で、日本は「千島列島」および「南樺太」の権利を放棄しました。 ロシアは条約に署名していませんが、現在の実効支配の根拠の一つとして、「日本はこの地を放棄したではないか」という事実を利用しています。

しかし、中国に従って「条約は無効」とするならば、以下のドミノ倒しが発生します。

  1. 日本の「千島・南樺太放棄」も無効となる。
  2. したがって、千島列島と南樺太の主権は日本に残っている。
  3. 現在、そこを支配しているロシアは、なんら法的根拠のない「不法占拠者」となる。

中国は現在、ロシアとの「無制限の友好」をアピールしていますが、公式Xでの発信は、プーチン大統領の足元を掘り崩す行為に他なりません。 「戦勝国による戦後秩序」を強調したいはずのロシアにとって、その秩序を定めた条約を全否定されることは、自国の国境線を流動化させる悪夢です。 中国がこの矛盾に気づいていないのか、あるいは将来的に極東ロシアを飲み込む野心のために意図的に「国境の根拠」を破壊しているのか。どちらにせよ、これは中露関係における時限爆弾と言えるでしょう。


第5章:なぜ中国は「論理的自殺」を選んだのか?

ここまで見てきた通り、サンフランシスコ条約の否定は、論理的にも外交的にも「百害あって一利なし」に見えます。 それなのになぜ、中国はこれほど強引な発信を続けるのでしょうか? その背景には、焦りと計算が入り混じった「三戦(世論戦・心理戦・法律戦)」の戦略があります。

1. 「台湾地位未定論」への恐怖

近年、国際社会では「サンフランシスコ条約には台湾の返還先が書かれていない(=地位は未定である)」という解釈が再注目されています。 これが定着すれば、中国の台湾侵攻は「内戦」ではなく、他国への「侵略」となります。これを恐れる中国は、議論の土俵(条約の解釈)で戦うことを諦め、「そもそも条約自体が無効だ」とちゃぶ台を返すしかなくなったのです。

2. 「嘘も百回言えば真実」の認知戦

中国のターゲットは、国際法の専門家ではありません。歴史に詳しくないグローバルサウスの国々や、自国の国民です。 SNSを通じて「日本とアメリカが作った条約は違法だ」と繰り返し刷り込むことで、国際法という客観的なルールを無力化し、「中国の主張も一理ある」という空気を醸成しようとしています。これは論理の戦いではなく、**「ナラティブ(物語)の押し付け合い」**なのです。

3. 時間がないという焦り

経済の失速、少子高齢化、そして日米同盟の強化。中国にとって、台湾を併合するための「機会の窓」は徐々に閉まりつつあります。 「なりふり構っていられない」 論理的な整合性を犠牲にしてでも、とにかく現状を変更するための言説をばら撒く。その強引な姿勢こそが、彼らの追い詰められた状況を如実に物語っています。


【結び】 私たちが取るべき態度は「冷静なファクト」

中国の「公式アカウントによる発信」は、一見脅威に感じられますが、その実態は矛盾だらけの砂上の楼閣です。 彼らが「条約無効」を叫べば叫ぶほど、「じゃあ台湾は日本のものだね」「ロシアの支配も違法だね」というブーメランが突き刺さります。

私たち日本人に必要なのは、感情的に言い返すことではありません。 「そうですか、条約が無効なんですね。では、台湾も千島も樺太も、法的には日本の主権下に戻りますが、それでよろしいですか?」 と、冷静に国際法の鏡を突きつけることです。

中国が力尽くでこじ開けようとしている「パンドラの箱」。しかしその中に入っていたのは、中国自身の主張を崩壊させる「希望」ではなく「絶望」のパラドックスだったのかもしれません。

この矛盾が世界中に広まり、中国の「法の支配」に対する挑戦が白日の下に晒されることこそ、最大の抑止力となるはずです。

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