近年、アメリカは中国に対して経済制裁や関税強化といった圧力政策を強めてきました。特にトランプ政権下では「関税戦争」が本格化し、現バイデン政権や、今後のトランプ再登板の動きにおいても、その傾向が継続しています。2025年現在も、アメリカは中国に対して相互関税、輸出管理、投資制限など、複合的な経済封じ込め政策を展開しています。
しかし、こうした“制裁外交”が本当にアメリカにとって有利なものとなっているのかというと、現実はむしろ逆の可能性があります。米国の対中政策は、結果として「新たな覇権国家・中国の誕生を加速させている」のではないか――本記事では、この仮説を多角的に検証し、BRICSの拡大、ドル離れ、世界秩序の転換に至るまでの流れを整理していきます。
制裁が中国の自立を促進
アメリカが中国に対して関税を課し、技術や資本の流入を制限するたびに、中国ではむしろ「自立」や「自国技術の育成」が加速しています。
例えば半導体分野では、アメリカが先端チップの供給を制限したことで、中国は国内での開発・量産体制を急ピッチで整えました。また、米国製OSやクラウドサービスの排除が進む中、アリババやファーウェイなどの企業が自社インフラの構築を推進し、いわば“技術的主権”の確立を目指しています。
このように、米国の制裁は、中国のサプライチェーンの国産化と技術的自立を促す結果となっているのです。
米国市場への依存からの解放
とりわけ注目すべきは自動車産業です。アメリカがEVを含むすべての輸入車に対して一律25%の追加関税を課したことで、日本・ドイツ・韓国などの主要自動車メーカーは深刻な打撃を受けました。
しかし中国の自動車メーカーは、もともと米国市場から締め出されていたため、今回の関税による実質的なダメージはほとんどありません。BYDやNIOといった中国企業は、東南アジア、欧州、中南米、中東といった“米国以外の世界”を主戦場とし、国際展開を急速に進めています。
結果的に、米国市場への依存度が高いメーカーは苦境に立たされる一方で、中国メーカーは“無傷”どころか、さらなる拡大の好機を迎えているのです。
グローバル・サウスとの結びつきとBRICSの深化
中国は長年にわたって、一帯一路構想を通じてアジア、アフリカ、中南米諸国との経済的な連携を強めてきました。その延長線上にあるのがBRICS(中国・ロシア・インド・ブラジル・南アフリカ)です。
近年では、この枠組みにサウジアラビア、イラン、エジプト、アルゼンチンなどが加わり、新興国経済圏としての存在感が飛躍的に高まっています。
この背景には、アメリカ主導の国際秩序に対する不満や警戒感があります。ロシアへの経済制裁、中国への技術制限、イスラエルへの一方的支援など、アメリカの外交姿勢に違和感を抱く国が増えたことで、「アメリカとは異なる経済秩序を築きたい」という動きが勢いを増しています。
結果として、BRICSはアメリカ以外の国々にとって、もう一つの選択肢として深化しているのです。
ドル離れと基軸通貨の揺らぎ
経済制裁を繰り返すアメリカに対して、多くの国が「ドルの武器化」に不信感を抱くようになりました。実際、原油や天然ガスの取引で人民元建ての決済を選択するケースが考えられます。
また、中国はSWIFTに代わる決済ネットワーク「CIPS」を推進し、デジタル人民元の実証実験も進めています。これにより、アメリカの制裁リスクを避けたい国々が、人民元や地域通貨での取引へと移行し始めていく可能性があります。
ドルが唯一の基軸通貨であるという前提が崩れ始めた今、「通貨の多極化」はもはや不可避の流れとも言えるでしょう。
世界の“軍事的保証人”も交代するのか
アメリカは長年、「世界の警察官」として国際秩序を維持してきました。しかし、国内では“戦争疲れ”が広がり、世界への軍事的関与を縮小する声も高まっています。
その一方で、中国は経済援助とセットで、軍事訓練や港湾の軍事利用などを通じて、アジア・アフリカ・中東におけるプレゼンスを強めています。また、中国製の武器やドローンは、価格面や供給スピード、政治的条件の緩さから、多くの国にとって魅力的な選択肢となっています。
今後、経済だけでなく安全保障の分野においても、中国がアメリカの代替的な存在となる可能性が高まっているのです。
結論:アメリカは自ら覇権を手放す道を歩んでいるのか
本来、中国を封じ込めるために設計されたはずの関税政策や経済制裁ですが、現実には中国の産業や経済戦略を後押しし、さらに米国以外の国々との結びつきを強める結果を生んでいます。
BRICSの拡大、ドル離れ、新たな通貨体制、安全保障の再編――これらはすべて、アメリカが築いてきた世界秩序が大きく揺らぎ始めている証拠です。
世界は今、アメリカ一強の時代から多極化の時代へと移行しつつあります。そして、その転換を加速させているのが、皮肉にもアメリカ自身の外交・経済政策であるのかもしれません。
参考サイト
- JOGMEC(石油・天然ガス・金属鉱物資源機構)
- 内閣府 世界経済の潮流レポート(2022年版)
- 国際貿易投資研究所(ITI)
- Bloomberg / Reuters など(一般ニュース引用として有効)
- トランプ政権の関税政策やBRICS拡大の報道など。