EUのCO₂排出規制の矛盾:中国EVメーカーを利する仕組みとは?

(*本記事は2025年2月7日時点の情報に基づいて執筆されています。)

EUは環境政策の一環として、2035年以降の内燃機関車の販売禁止を決定し、EV(電気自動車)への移行を強力に推進しています。その中で、EUのCO₂排出規制が導入され、自動車メーカーは厳格な排出基準を満たすことが求められています。しかし、この規制の仕組みが結果的に中国のEVメーカーを利する状況を生み出していることをご存知でしょうか?本記事では、EUのCO₂排出規制の矛盾点と、それが欧州メーカーに与える影響について解説します。

EUのCO₂排出規制とは?

EUでは「Regulation (EU) 2019/631」に基づき、自動車メーカーに対してCO₂排出量の上限が設定されています。この上限を超えた場合、メーカーは罰則を受けるか、もしくは排出クレジットを購入することで規制をクリアしなければなりません。

具体的には、以下のような目標が定められています:

  • 2021年:平均排出量95g/kmを達成(多くのメーカーがクリア)。
  • 2025年:2021年比で15%の削減。
  • 2030年:2021年比で37.5%の削減。

この規制の目的は、内燃機関車からEVへの移行を促進し、EU域内の温室効果ガス排出を削減することです。しかし、規制の設計上、思わぬ副作用が発生しています。

排出クレジット制度と中国メーカーの台頭

EUの排出規制には「クレジット取引」制度が存在します。これは、排出量が少ないメーカーが余剰クレジットを販売できる仕組みです。

中国のEVメーカー(BYD、MGなど)は、欧州でEVを中心に販売しており、CO₂排出量がゼロに近いため、クレジットを大量に保有しています。一方、欧州メーカーはSUVや高級車の販売比率が高く、CO₂排出量を削減するのが難しいため、罰金を回避するために中国メーカーからクレジットを購入する必要があります。

つまり、EUの規制が結果的に中国EVメーカーを利する構造になっているのです。

EUの関税政策とクレジット取引の矛盾

EUは、中国EVメーカーの台頭を警戒し、高い関税を課すことで競争を抑制しようとしています。しかし、同時に欧州メーカーは規制をクリアするために中国メーカーからクレジットを購入する必要があり、最終的に欧州メーカーから中国メーカーへ資金が流れるという皮肉な状況が生まれています。

具体的には:

  1. EUは中国製EVに関税を課す → 中国メーカーの市場参入を抑える。
  2. 欧州メーカーはCO₂排出目標を達成できない → クレジットを購入しなければならない。
  3. 中国メーカーはクレジットを販売できる → 欧州メーカーから資金を得る。

この結果、関税で抑えようとした中国メーカーが、クレジット販売によって利益を得る構造になってしまいます。

欧州メーカーの苦境と今後の課題

この制度の影響で、欧州メーカーは二重の圧力を受けています。

  • CO₂排出クレジットの購入費用が増大 → 収益が圧迫される。
  • EV販売の遅れ → EUの規制目標を達成できないリスクが高まる。
  • SUVや高級車の売上減少 → CO₂排出量削減のために主力製品の販売を抑える必要がある。

特に、フォルクスワーゲンやメルセデス・ベンツなどのメーカーは、排出目標を達成するための戦略を見直しており、規制の見直しを求める声も上がっています。

可能な解決策

この問題を解決するためには、いくつかのアプローチが考えられます。

  1. クレジット取引の制限
    • 中国メーカーとの取引を制限し、EU域内のメーカー間でのみクレジット取引を認める。
    • しかし、これは自由市場の原則に反する可能性がある。
  2. EV販売の促進
    • 欧州メーカーがEV販売を増やし、クレジット購入の必要性を低減する。
    • そのためには充電インフラの拡充が不可欠。
  3. 規制の柔軟化
    • SUVや高級車の排出基準を緩和し、多様な車種の選択肢を維持する。
    • 罰則の仕組みを見直し、メーカーに過度な負担をかけないようにする。

まとめ:EUの環境規制は誰を利しているのか?

EUのCO₂排出規制は、環境対策として設計されたものですが、その実態は欧州メーカーにとって厳しい負担となり、中国メーカーにとって有利な仕組みになっています。

  • 関税をかけても、クレジット取引で中国メーカーを支援する結果に。
  • 欧州メーカーは罰則回避のためにクレジットを購入し、中国メーカーが利益を得る。
  • このままでは欧州自動車産業の競争力が低下する可能性が高い。

また、1月30日には「欧州自動車産業の将来に関する戦略的対話」が行われ、今後の規制や政策の見直しについて議論が進んでいます。今後具体的な動きが出てくると思われるので、引き続き注目していきましょう。

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