欧州議会右派動向と制度的制約 (なぜ一緒になれないの?)

ヨーロッパ 政治

はじめに:右派政党の台頭と欧州政治の新局面

2024年の欧州議会選挙では、フランスの「国民連合(Rassemblement National=RN)」、ドイツの「ドイツのための選択肢(AfD)」、イタリアの「イタリアの同胞(Fratelli d’Italia)」など、保守・ナショナリスト系の右派勢力が大きく議席を伸ばしました。
エネルギー危機、移民問題、ウクライナ情勢などを背景に、国民国家の主権を重視する声が高まったことがその要因といえます。
一方で、欧州議会の制度や各党の立場の違いが壁となり、右派政党が一つにまとまって「中道右派の大黒柱」といえる欧州人民党(EPP)のような大会派を形成するには至っていません。
この記事では、欧州議会の会派構成を整理しつつ、右派政党がなぜ一枚岩になれないのか、その課題と展望をまとめます。


欧州議会の主要会派と議席分布

欧州議会は加盟27か国、総議席数720議席で構成され、議員は国籍ではなく政治的志向によって「会派(政治グループ)」に属します。
以下は2024年選挙後の主な会派の概要です。

主な政治グループ(2024〜2029年期)

会派名議席数(目安)政治的立ち位置主な構成・特徴
EPP(欧州人民党)約188中道右派・保守ドイツCDU/CSUなど。欧州統合と市場経済を重視し、議会最大勢力。
S&D(社会主義・社会民主)約136中道左派各国の社会民主党や労働党。福祉・所得再分配・労働保護を重視。
Renew Europe約77中道リベラルフランス大統領マクロン派など。自由主義、経済改革、デジタル化を推進。
Greens/EFA約53左派・環境緑の党、地域主義政党。気候変動対策や人権を中心に政策提言。
The Left(左派)約46左派・急進左翼各国の急進左派・共産系政党。反緊縮、強い再分配政策を主張。
ECR(保守改革派)約78中道~右派保守イタリアのFratelli d’Italiaなど。EU改革や加盟国主権を重視。
PfE(Patriots for Europe)約84右派・ナショナリストフランスRN、ハンガリーのフィデスなど。EU統合に懐疑的。
ESN(Europe of Sovereign Nations)約25極右・主権国家重視ドイツAfD中心。小規模ながら強い懐疑主義を掲げる。
無所属(NI)約30前後多様どの会派にも属さず独自活動。議会運営では制約あり。

この表からも、EPP・S&D・Renewの3大会派を中心に、中道系が依然として議会の安定多数を握っていることがわかります。


右派系政党の現状:RN・AfD・イタリア右派

フランス:国民連合(RN)

  • 所属会派:PfE(Patriots for Europe)
  • 特徴:移民制限、主権重視、EU統合への懐疑を掲げる。2024年選挙で大きく議席を伸ばし、PfEの中心的存在となりました。
  • 背景:従来所属していたID(Identity and Democracy)会派が再編され、PfEがその後継的な役割を担っています。

ドイツ:AfD(ドイツのための選択肢)

  • 所属会派:ESN(Europe of Sovereign Nations)
  • 特徴:EU統合に批判的で、ドイツ国内でも議論を呼ぶ立場。ID会派から除名された経緯があり、自らを中心に新会派ESNを立ち上げました。
  • 課題:規模が小さく、他国政党との政策調整にも困難を抱えています。

イタリア:Fratelli d’Italia(イタリアの同胞)など

  • 所属会派:ECR(保守改革派)
  • 特徴:Giorgia Meloni首相を支える勢力。EUを「変革しながら残す」路線で、極右色をやや抑えつつ保守的な主張を展開。
  • 他勢力:同じく右派系の「同盟(リーガ)」などはかつてID系との連携を模索しましたが、現在は距離を置く動きも見られます。

右派大会派が形成できない理由

右派勢力が議席を伸ばす一方で、EPPのような大きな統合会派を形成できていないのが現実です。その主な要因を整理します。

1. 会派成立条件の高さ

欧州議会で会派を正式に結成するには23人以上の議員少なくとも7か国以上からの参加が必要です。
AfD中心のESNなどはこの条件をかろうじて満たす規模にとどまり、大会派としての安定感を欠きます。

2. イデオロギーの違い

  • ロシアやウクライナへの姿勢、移民政策、経済・財政政策などで意見が大きく分かれます。
  • RNは中道層を取り込むため強硬路線を避ける一方、AfDは急進的主張を堅持するなど、統一綱領づくりが難しい状況です。

3. 他会派による「コルドン・サニテール(排除線)」

EPPやS&Dなど中道・左派会派は、極右勢力に議会ポストや交渉権を与えない慣行を持つ場合があります。これが右派会派間の接近にも心理的障壁をつくっています。

4. 内部分裂と信頼不足

ID会派からのAfD除名に見られるように、右派内部での軋轢は根深いものがあります。
さらにESN内でもロシア政策をめぐる意見対立が表面化し、長期的安定を欠く要因となっています。

5. 世論と政治リスク

「極右の大連合」というイメージは欧州世論の一部で強い警戒を呼び、参加政党にとって国内政治上のリスクともなります。


右派勢力の今後:統合への道筋はあるか

右派勢力がEPPのような大会派に近づくには、共通政策の抽出内部調整メカニズムが不可欠です。
移民や主権回復といったテーマで最小公約数をまとめつつ、経済・財政政策は各国に一定の自由を残す「部分協調型」が現実的と見られます。
また、ECRのように中道保守寄りで対話の余地を持つ会派との戦略的連携も一つの選択肢です。

ただし、ロシア政策やEU統合の是非など根本的な相違点は容易に埋まりません。次期欧州議会選挙や加盟国の政治情勢の変化を通じて、時間をかけた調整が必要になるでしょう。


まとめ

2024年の欧州議会選挙は、右派政党が大きく勢力を伸ばした点で歴史的な意味を持ちます。しかし、RNはPfE、AfDはESN、イタリア右派はECRと、それぞれ別々の会派に属し、現状ではEPPのような統合的大会派を築くには至っていません。
制度的要件、政策の違い、他会派による排除、内部分裂など複合的な障壁が存在します。
これらを乗り越え、真の意味で右派勢力が一体となった場合、欧州政治のパワーバランスは大きく変わる可能性がありますが、その道のりは容易ではありません。


参考サイト

この記事を書いた人
ひろ部長

海外で働きながら、経済・政治・宗教を中心に情報を発信しています。現在はフランスを拠点に、ヨーロッパ各国の政治制度や社会の動向を分析し、データベースのように体系的にまとめることを目指しています。

このブログでは、ニュースの表面的な報道にとどまらず、歴史的背景や各国の制度的な違いに着目し、独自の視点で解説します。特に欧州政治に関心がある方や、海外のリアルな情報を知りたい方に役立つ内容をお届けします。

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