欧州議会の右派勢力を読み解く:3つのグループとその力学

ヨーロッパ 政治

2024年の欧州議会選挙では、右派勢力の台頭が大きな注目を集めました。とくにフランスやオランダ、ドイツ、イタリアなどで保守的・ナショナリズム的な政党が支持を伸ばし、これまで中道・リベラル・社会民主主義勢力が主導してきた欧州政治に新たな地殻変動をもたらしています。

この記事では、欧州議会の仕組みを踏まえたうえで、右派勢力がどのように3つの異なるグループに分かれ、それぞれがどのような思想や立場を持っているのか、そしてその関係性や今後の展望について整理していきます。


欧州議会の仕組み:国別政党ではなく「超国家的グループ」単位で活動

欧州議会は、EU加盟27か国の有権者が直接選挙で選出する、EU唯一の「超国家的民主制度」です。しかしながら、欧州議会では各国の政党がそのまま活動するのではなく、政治思想や政策理念が共通する他国の政党とともに「政党グループ(Political Group)」を形成して活動しています。

たとえば、ドイツのキリスト教民主同盟(CDU)は、フランスの共和党やスペインの国民党と共に「欧州人民党(EPP)」を構成しています。同様に、社会民主系、自由主義系、緑の党系などもそれぞれグループを形成しています。

この仕組みにより、国境を越えた「政策連合」が生まれ、法案の採決や委員会の議席配分、議会議長の選出などが行われています。


右派勢力は3つのグループに分かれている

2024年の欧州議会では、右派政党が合計で190議席以上(720議席中)を占めており、大きく3つの政党グループに分かれています。それぞれの性格や主張には明確な違いがあります。

① ECR(欧州保守改革グループ) 84議席

ECRは、保守的な価値観を重視しつつも、EUを完全に否定せず、改革・再構築を目指す中道右派〜保守右派の連合です。

  • 所属政党:イタリアの同胞(FdI)、ポーランドの法と正義(PiS)、スペインのボックス(Vox)、チェコの市民民主党(ODS)、ベルギーのN-VAなど
  • 主張:移民制限、伝統的な家族観、EU主権の見直し、しかしウクライナ支援やNATOとの連携には積極的
  • 特徴:現在の欧州政権与党とも一定の連携があり、「体制内の保守」としての性格が強い

イタリアのジョルジャ・メローニ首相率いるFdIは、ECRの象徴的存在です。メローニ氏は保守的な価値観を掲げつつも、EUの財政ルールや安全保障協力については建設的な姿勢を示しています。

② PfE(Patriots for Europe/欧州のための愛国者) 78議席

PfEは、2024年7月に結成された新しい右派グループで、反移民・ナショナリズムを前面に打ち出す急進的な保守政党の集まりです。

  • 所属政党:フランスの国民連合(RN)、ハンガリーのフィデス(Fidesz)、オランダの自由党(PVV)、オーストリア自由党(FPÖ)など
  • 主張:EU統合への強い反対、移民排斥、反グローバリズム、国家主権の絶対視
  • 特徴:EUに対して懐疑的というより敵対的な態度を取る政党が多く、ロシアに対する態度も一部で親和的

RNのマリーヌ・ルペン氏、フィデスのオルバン首相らが主導し、右派ポピュリズムの国際連帯を構築しようとしています。

③ ESN(欧州主権国家のためのグループ) 25議席

ESNは、さらに右寄り、もしくは過激とみなされる政党が集まったグループです。他のグループからも距離を置かれており、孤立的な色合いを持ちます。

  • 所属政党:ドイツのAfD、スロバキアの共和国党、ブルガリアの復活党など
  • 主張:EUからの離脱をも視野に入れる主権主義、民族主義的な価値観
  • 特徴:AfDはナチス時代を「再評価する」ような発言で問題視され、PfEからも除外された経緯があります

ESNのような極右勢力は、単独での影響力こそ限られますが、政策議論の方向性に強い影響を与える存在です。


グループ内の協力は進むが、グループ間の連携は進まない

この3つの右派グループは、全体で見れば移民反対・家族重視・EU懐疑など共通する政策も多く、選挙戦では似たようなスローガンを掲げることもあります。
しかし実際には、価値観や外交政策、対EUの態度に違いがあり、グループ間の協力は限定的です。

例えば…

  • ECRとPfEの違い
    • ECRはウクライナ支援や対ロ制裁を支持
    • PfEはロシアとの融和を主張する政党が多い(特にFidesz、FPÖ)
  • メローニ(FdI)とルペン(RN)との関係
    • 両者とも「右派女性リーダー」として注目されるが、EUへの姿勢は大きく異なる。メローニは欧州委員長フォンデアライエンへの協力も表明している。
  • AfD(ESN)との関係
    • AfDはPfEやECRのいずれからも距離を置かれ、欧州議会内で孤立している。

このように、右派勢力は内部で協調が進む一方、グループを超えた連携は難しく、右派連合による一枚岩の行動は現状では難しい状況です。


勢力図を把握して欧州の政治を見る面白さ

欧州政治の動きを理解するためには、国ごとの政局だけでなく、欧州議会におけるグループ間の関係や力学を把握することが重要です。

特に右派は、かつては「辺境的存在」でしたが、今や議席数ベースで第2〜第3勢力となるグループを複数形成し、政策への影響力を確実に強めています。

欧州政治を見るときに、以下の3点を意識すると理解が深まります。

  1. 「政党」ではなく「グループ単位」で見る
    → 例:RNはPfE、FdIはECR、AfDはESN
  2. グループごとの主張と限界を知る
    → 協調できる部分、できない部分を整理
  3. 図解で勢力を整理して頭に入れる
    → 今後の動向(委員長人事、政策協議など)の読み解きがしやすくなる

結びに:右派は「台風の目」になりうるか?

今後、EUが抱える課題──移民政策、グリーンディール、ウクライナ支援、拡大問題など──において、右派勢力の対応や連携の有無が重要な鍵となっていきます。

中でも注目すべきは、PfEがどこまで勢力を拡大し、ECRとの合流や政策協調が進むのか、あるいはAfDなど極右が再び主流右派に影響を与えるのかという点です。

日本から見れば一見複雑な欧州議会の仕組みですが、「ECR・PfE・ESN」という3つの右派グループの位置づけと関係性を知ることで、より深く・面白く欧州政治を読み解くことができるのです。

✅ 参考にした主なサイトと内容補足

1. European Parliament Official Website(公式欧州議会サイト)

  • 欧州議会の構造、議席配分、政党グループの説明、2024年選挙結果などの一次情報が確認できます。

2. Financial Times – Marine Le Pen teams up with Italian far right in Viktor Orbán’s new EU group

  • PfEの結成背景、ルペン・オルバン・ウィルダースの連携関係、2024年選挙後の動きが詳述されています。

3. Le Monde – Bardella heads the third-largest group of EU Parliament

  • RNのジョルダン・バルデラがPfEのリーダー格であること、PfEが欧州議会第3勢力になった経緯について掲載。

4. The Guardian – Von der Leyen says ‘centre is holding’ as far right surges in EU elections

  • 右派の躍進と中道勢力の対抗構造、選挙結果の全体像がライブ更新形式で把握可能。

5. Nikkei – 欧州も選挙イヤー-右派ポピュリスト勢力伸長の行方

  • 日本語で欧州右派の台頭に関する読みやすい概説記事。

この記事を書いた人
ひろ部長

海外で働きながら、経済・政治・宗教を中心に情報を発信しています。現在はフランスを拠点に、ヨーロッパ各国の政治制度や社会の動向を分析し、データベースのように体系的にまとめることを目指しています。

このブログでは、ニュースの表面的な報道にとどまらず、歴史的背景や各国の制度的な違いに着目し、独自の視点で解説します。特に欧州政治に関心がある方や、海外のリアルな情報を知りたい方に役立つ内容をお届けします。

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