はじめに
東欧諸国は歴史的にロシア(旧ソ連)と密接な関係を持ち、冷戦時代には多くの国がソ連の影響下に置かれていました。しかし、ソ連崩壊後、各国はそれぞれ異なる進路を選び、EUやNATOに加盟する国が増えた一方で、ロシアとの関係を維持する国もあります。ウクライナ戦争をきっかけに、東欧諸国の対ロシア政策がさらに明確に分かれました。本記事では、それぞれの国のスタンスと背景を解説し、今後の国際情勢への影響を考察します。
1. 反ロシア・親西側の国々
バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)
バルト三国は、1940年にソ連に併合され、長年にわたり支配を受けてきました。そのため、独立回復後はNATOやEUに加盟し、ロシアからの独立性を強く求めています。ウクライナ戦争以降は特にロシアに対する警戒を強めており、NATOの防衛強化を積極的に求めています。
ポーランド
ポーランドは歴史的にロシアとの対立が続いており、現在も強い反ロシア姿勢を示しています。ウクライナへの軍事・人道支援を積極的に行い、ロシア制裁にも率先して参加しています。また、アメリカとの軍事協力を強化し、NATO内での存在感を増しています。
チェコ・スロバキア
チェコとスロバキアもEU・NATO加盟国として西側寄りの立場をとっています。ただし、スロバキアでは近年親ロシア的な政権が誕生し、一部の政策に変化が見られます。
2. バランスを取る国々
ハンガリー
ハンガリーはEU・NATO加盟国ですが、オルバン政権はロシアとの経済的関係を重視し、エネルギー供給の確保を優先しています。そのため、EUの対ロシア制裁に対して消極的な姿勢を取ることが多く、EU内で孤立する場面も増えています。
ブルガリア
ブルガリアは伝統的に親ロシア感情が強い国ですが、近年はEUとの関係を強化しています。しかし、エネルギー供給の大部分をロシアに依存しているため、対ロシア政策には慎重な姿勢をとっています。
3. 比較的親ロシア的な国々
セルビア
セルビアはEU加盟候補国ですが、ロシアとの伝統的な友好関係を維持しています。特にコソボ問題ではロシアの支持を受けており、ウクライナ戦争に関しても制裁に参加せず、中立的な立場を取っています。
ベラルーシ
ベラルーシはロシアの最も強力な同盟国の一つであり、ウクライナ戦争でもロシアを全面的に支援しています。ルカシェンコ政権は長年ロシアの影響下にあり、独立性は非常に低い状態です。
4. モルドバとクロアチアの特殊な立場
モルドバ
モルドバはEU加盟を目指していますが、国内に親ロシア派の勢力が強く、特に沿ドニエストル問題(ロシアの影響を受ける分離地域)がEUとの関係を難しくしています。ロシアからのエネルギー依存も課題です。
クロアチア
クロアチアはNATO・EU加盟国であり、ウクライナ戦争においても明確に西側を支持しています。旧ユーゴスラビア紛争の影響もあり、ロシアへの不信感が強い国の一つです。
5. 今後の国際情勢への影響
東欧諸国の対ロシア政策は、今後のEU、NATOの結束やウクライナ戦争後の国際秩序に大きな影響を与えます。
(1)EU・NATOの結束
- バルト三国やポーランドなどの国々はNATOの軍事的強化を求めており、今後もロシアに対する抑止力を強める方向に進むでしょう。
- 一方、ハンガリーやブルガリアのような国がEU内で対ロシア政策に足並みを揃えない場合、EUの結束が揺らぐ可能性もあります。
(2)ウクライナ戦争後の世界情勢
- ウクライナ戦争が終結した場合でも、ロシアとの関係は一部の国を除き冷え込んだままとなる可能性が高いです。
- 特にウクライナの復興や安全保障問題をめぐり、東欧諸国が重要な役割を果たすでしょう。
(3)アメリカとの関係
- ポーランドやバルト三国など、強い親米派の国々は引き続きアメリカと軍事協力を深めると予想されます。
- ハンガリーのような独自外交を進める国が、アメリカとの関係をどう維持するかが注目されます。
まとめ
東欧諸国の対ロシア政策は一枚岩ではなく、各国の歴史、経済、安全保障の状況によって異なります。
- ポーランド、バルト三国、クロアチアは完全に西側寄りで、対ロシア制裁やNATO強化を支持。
- ハンガリー、ブルガリアはロシアとの経済的関係を維持しながら、西側と調整を図る立場。
- セルビアはEU加盟を目指しながらロシアとの関係も継続。
- モルドバはEU加盟を進めるが、沿ドニエストル問題が最大の障害。
- ベラルーシは完全にロシア寄りで、ウクライナ戦争後も強い同盟関係を維持。
しかし、ウクライナ戦争を機に、ロシアと距離を取る国が増えており、今後もこの傾向は続くと考えられます。
特に、東欧諸国の動向はEU・NATOの結束、ウクライナ戦争後の国際秩序、アメリカとの関係に大きな影響を与えます。今後の情勢を注視しながら、東欧諸国の外交政策の変化に注目していくことが重要です。
参考サイトと補足情報
1. NATOの東欧防衛戦略
🔗 最新情報(NATO公式サイト)
📌 補足: NATOはポーランドやバルト三国に追加の兵力を配置し、ロシアの脅威に備えています。2025年にはポーランドへの米軍基地の増強、バルト三国でのミサイル防衛強化が進められています。
2. EUの対ロシア制裁政策
🔗 最新情報(EU公式制裁情報)
📌 補足: EUは2025年もロシアへの経済制裁を維持。特にハンガリーやブルガリアは制裁緩和を主張し、EU内で意見が割れています。ポーランドやバルト三国はより厳しい制裁を求めています。
3. ロシアと東欧諸国のエネルギー依存状況
🔗 最新情報(ロイター・エネルギーセクション)
📌 補足: ハンガリーはロシアのガス供給を引き続き受けている一方、ポーランドやバルト三国は完全にロシア産エネルギーを排除。ブルガリアはロシア産原油の代替ルートを模索しています。
4. モルドバの沿ドニエストル問題
🔗 最新情報(DW: ドイチェ・ヴェレ)
📌 補足: モルドバ政府は沿ドニエストルのロシア軍撤退を求める動きを強めており、EU加盟交渉の進展が鍵に。ロシア側は沿ドニエストルへの影響力を維持しようとし、緊張が続いています。
5. クロアチアのNATO・EU内での立場
🔗 最新情報(Euractiv)
📌 補足: クロアチアはNATO・EUの一員として、ロシアへの対抗策を支持。2025年にはNATOのバルカン地域戦略の一環として、セルビアとの関係を調整しながら西側寄りの立場を維持しています。
6. セルビアのロシア関係とEU加盟交渉
🔗 最新情報(Balkan Insight)
📌 補足: セルビアはEU加盟交渉を進めるものの、ロシアとの軍事・経済関係を維持。一部の政党は親ロシア的ですが、国民の間ではEU加盟を支持する声が増えています。
7. ベラルーシのロシア関係
🔗 最新情報(Al Jazeera)
📌 補足: ルカシェンコ政権は依然としてロシアに従属的な立場。ウクライナ戦争の影響で西側諸国との関係はさらに悪化し、ロシア軍の駐留拡大が進むとの報道が出ています。