吉利汽車(Geely)の欧州進出とその戦略

はじめに

近年、中国の自動車メーカーは急速に成長し、世界市場に進出しています。その中でも特に注目されるのが吉利汽車(Geely)です。Geelyは、単なる輸出拡大にとどまらず、欧州の自動車メーカーへの資本参加やブランド買収を通じて、グローバルな影響力を高めています。本記事では、Geelyの欧州進出の現状と戦略について詳しく解説します。


1. Geelyとは?

Geely(吉利汽車)は、1997年に中国浙江省で設立された自動車メーカーです。もともとはバイクメーカーとしてスタートしましたが、自動車事業に参入し、現在では中国最大の民間自動車メーカーの一つとなっています。

Geelyの特徴は、積極的なM&A戦略と海外進出です。特に、欧州ブランドの買収・投資によるプレゼンス拡大が他の中国メーカーとは異なる点です。


2. Geelyの欧州進出の経緯

Geelyの欧州展開は、以下のような大きな節目を経て進んできました。

(1) 2010年:ボルボ・カーズの買収

Geelyは、2010年にフォードからスウェーデンのボルボ・カーズを買収し、一躍世界的な注目を集めました。これは中国企業による欧州大手メーカーの初の買収例であり、Geelyの欧州進出の礎となりました。

(2) 2017年:ロータスの買収

2017年には、英国のスポーツカーメーカー「ロータス」の経営権(51%)を取得し、高級スポーツカー市場にも進出しました。

(3) 2018年:メルセデス・ベンツの筆頭株主に

2018年、Geelyの創業者である李書福氏は、ダイムラー(現メルセデス・ベンツ・グループ)の株式9.69%を取得し、筆頭株主となりました。この投資により、欧州プレミアムブランドとの技術協力が加速しました。

(4) 2023年:アストンマーティンへの出資拡大

2023年5月、Geelyは英国の高級車メーカーアストンマーティンの持株比率を17%に引き上げ、第3位の株主になりました。これにより、Geelyは欧州のラグジュアリーブランドにも影響力を持つことになりました。

(5) 2024年以降:欧州での生産拠点の計画

Geelyは現在、ポーランドでのEV生産工場の建設を検討しており、欧州現地生産を強化する方針です。

(6) Lynk & Coの欧州展開

Geelyは、ボルボとの合弁ブランドであるLynk & Coを通じて、欧州市場でのシェア拡大を進めています。Lynk & Coは、サブスクリプション型のビジネスモデルを採用し、欧州の都市部を中心に展開しています。特に、ドイツ、フランス、オランダ、スウェーデンなどで人気が高まりつつあり、カーシェアリングや柔軟な所有形態を求める消費者に訴求しています。


3. Geelyの欧州戦略の特徴

(1) M&Aと資本参加による影響力拡大

多くの中国メーカーは欧州市場に参入するために輸出を強化していますが、Geelyは資本参加や買収によって、欧州メーカーそのものを取り込む戦略を採用しています。メルセデス・ベンツ、アストンマーティン、ボルボ・カーズ、ロータスなどへの投資は、その代表例です。

(2) 欧州ブランドの活用

Geelyは、買収したブランドを単に中国市場向けに活用するだけでなく、欧州市場での競争力強化にも役立てています。たとえば、

  • ボルボの技術を活用して、電気自動車ブランド「ZEEKR(極氪)」を開発
  • ロータスの技術をEVスポーツカー開発に応用
  • メルセデスと共同で「smart」ブランドの電動化を推進
  • Lynk & Coのサブスクリプションモデルによる市場開拓
(3) EV・ハイブリッド技術の強化

Geelyは電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)の開発に力を入れており、欧州市場でのEV需要拡大を狙っています。特に、「ZEEKR」ブランドは、欧州での販売を本格化させており、2025年には日本市場にも進出する予定です。

(4) 欧州での現地生産計画

Geelyは、ポーランドをはじめとした欧州各国での生産拠点設立を計画しており、今後の欧州市場での競争力を高める狙いがあります。


4. Geelyの欧州進出の影響と今後の展望

(1) 欧州自動車産業への影響

Geelyの進出は、欧州自動車メーカーの競争環境を大きく変える可能性があります。特に、

  • EV市場での競争が激化
  • 欧州の伝統メーカーが中国資本とどのように協力するかが問われる
  • 中国メーカーの影響力がさらに拡大する可能性 などの変化が考えられます。
(2) 他の中国メーカーとの違い

Geelyは資本参加や買収によって欧州市場での影響力を強化していますが、他の中国メーカーは主に輸出を中心とした戦略を採用しています。この違いは、Geelyが長期的な視点で欧州自動車産業そのものに関与する戦略を取っていることを示しています。

(3) 今後の課題

一方で、Geelyの欧州戦略には以下のような課題もあります。

  • 欧州各国の規制への対応(特に補助金政策や関税問題)
  • ブランドの欧州市場での受容度(中国資本への警戒感)
  • 競争激化による市場シェア確保の難しさ

おわりに

Geelyの欧州進出は今後も注目されるべき動向です。特に、Lynk & Coを含む多角的な戦略がどのように欧州市場に影響を与えるか、引き続き見守る必要があります。

参考サイト

  1. ReutersGeely’s European expansion and investments in automakers
    https://www.reuters.com
  2. Automotive News EuropeGeely’s role in the European car market
    https://europe.autonews.com
  3. MarkLinesGeely’s acquisition strategies and new business models
    https://www.marklines.com
  4. Financial TimesGeely’s growing influence in the automotive industry
    https://www.ft.com
  5. JETRO(日本貿易振興機構)中国自動車メーカーの海外展開
    https://www.jetro.go.jp
この記事を書いた人
ひろ部長

海外で働きながら、経済・政治・宗教を中心に情報を発信しています。現在はフランスを拠点に、ヨーロッパ各国の政治制度や社会の動向を分析し、データベースのように体系的にまとめることを目指しています。

このブログでは、ニュースの表面的な報道にとどまらず、歴史的背景や各国の制度的な違いに着目し、独自の視点で解説します。特に欧州政治に関心がある方や、海外のリアルな情報を知りたい方に役立つ内容をお届けします。

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