ルーマニア大統領選挙2025:決選投票の結果と、今後のルーマニアの課題

ヨーロッパ 政治

2025年5月18日に行われたルーマニア大統領選挙の決選投票で、無所属で親欧州派のニクショル・ダン氏が、極右政党「ルーマニア人統一同盟(AUR)」のジョルジェ・シミオン氏を破って当選しました。この選挙は単なる国家元首の交代にとどまらず、ルーマニア社会が進むべき方向性、そして民主主義の選択が問われる選挙となりました。

決選投票の構図と逆転劇

第1回投票(2025年5月4日)では、シミオン氏が41.3%の得票率を獲得して首位に立ち、ダン氏は29.6%で2位でした。シミオン氏はAURの支持を背景に農村部や保守層から強い支持を受けており、決選投票でも有利との見方が強まりました。

しかし、決選投票では中道・親欧州派の有権者が結集し、ダン氏が53.6%、シミオン氏が46.4%という結果で逆転勝利を収めました。最終的な投票率は65.1%と高水準を記録し、とりわけ都市部とディアスポラ(国外在住のルーマニア人)の投票率が顕著に高かったことが勝敗を左右したとされています。

ダン氏は勝利演説で「国民の和解と前進」を訴え、すべての有権者の声に耳を傾ける姿勢を示しました。一方、敗れたシミオン氏は当初SNS上で「自分が大統領だ」と宣言するも、最終的には敗北を認める形となりました。

極右AURの台頭:ヨーロッパ共通の課題

今回の選挙でAURは、農村部を中心に多くの支持を集めました。これは、ドイツのAfDやフランスのRNなど、欧州各国で進行中の極右政党の台頭と共通する現象です。AURは反移民・反EU・伝統回帰といった主張を掲げ、社会の不満層や保守的価値観を持つ層を巧みに取り込んでいます。

これらの動きは、経済的不安やグローバル化への反発といった背景に支えられており、ルーマニアもまた、欧州の政治的分断の一部となっていることが明らかになりました。

議会構成と連立交渉の難しさ

2024年末に実施された議会選挙の結果、ルーマニアの政治地図はさらに複雑になっています。

政党名議席数得票率(概算)
社会民主党(PSD)86約22%
ルーマニア人統一同盟(AUR)63約18%
国民自由党(PNL)49約13%
ルーマニア救済連合(USR)40約12%
SOSルーマニアなど新興政党28〜30約7〜8%
少数民族政党(UDMR等)22約6%
民族少数派連合19約1.5%

PSDが最大勢力とはいえ、単独で過半数には届かず、今後は連立交渉が不可欠です。ただし、AURのような極右政党を政権から排除しつつ、他党と協調しながら安定政権を築くことは非常に難しい課題です。

首相指名のプロセスと今後の予定

前首相のマルチェル・チョラク氏は2024年11月の大統領選混乱の責任を取り、辞任を表明していました。その後、暫定政権が続いていますが、今回の選挙結果を受け、ニクショル・ダン氏には新しい首相を指名し、本格的な政権を発足させる責任が課されています。

今後の政治的なスケジュールは次のようになると見られています:

時期内容
5月下旬大統領就任・政党間協議開始
6月初旬首相候補の指名
6月中旬組閣と信任投票の実施
6月下旬〜7月新内閣の発足と政策始動

ダン氏が首相候補を議会に提示し、閣僚名簿と政権方針をもって信任を得る必要があります。2回連続で信任されなければ議会解散の可能性もありますが、それはあくまで最終手段です。

ダン政権が直面する政策課題

ニクショル・ダン新大統領のもとで、次のような課題が優先されると見られます。

1. 汚職対策と司法改革

EU加盟以降、ルーマニアは汚職の温床と批判されてきました。政治家や官僚の不正を監視・処罰する制度の整備が、国内外から強く求められています。

2. 財政再建と生活支援

インフレと財政赤字が国民の生活に大きな影響を与えています。社会保障、最低賃金、教育・医療への投資をどうバランスさせるかが、政権の支持率を左右するでしょう。

3. 対ロシア・ウクライナ政策

ウクライナ支援の継続を表明するダン氏に対して、AURは支援の即時中止を主張してきました。EU・NATOとの連携強化と国内世論の板挟みが続く中で、慎重な舵取りが必要です。

4. EUとの関係深化

EUの補助金・復興基金の活用、規制改革、シェンゲン圏完全参加など、ルーマニアの国益を守りつつ欧州との結びつきを強化することが期待されています。

まとめ:ルーマニアの民主主義の未来

今回の大統領選挙は、極右勢力の台頭というヨーロッパ全体の潮流の中で、ルーマニアがどのような選択をするのか、ルーマニアだけではなくEU、NATOの今後が問われた選挙でした。

ニクショル・ダン氏の勝利は、国際社会から歓迎されており、EUとの関係を重視しながら改革を進めていく姿勢が求められています。ただし、議会の分断、AURの台頭、経済の停滞といった現実的課題は極めて重く、そのひとつひとつに丁寧に対応していく必要があります。

ルーマニアの今後の歩みは、欧州全体の民主主義の健全性を映す鏡となるでしょう。今後も注視していくべき国のひとつです。

✅ 参考サイト(出典)

  1. The Guardian – Romania election: EU relief as Nicusor Dan defeats far-right rival George Simion
  2. Reuters – Romania’s pro-EU president-elect known for calm, methodical approach
  3. AP News – Pro-EU centrist wins Romania’s tense presidential race
  4. Wikipedia (Français) – Élections parlementaires roumaines de 2024
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