2025年、自動車業界は未曾有の変革期を迎えています。
電動化の波、新興メーカーの台頭、そして需要の不透明感。こうした激動の中、フェラーリとフォードという対照的な二社が示した業績が注目を集めました。
販売台数も売上規模もまったく異なるにもかかわらず、純利益はほぼ同水準──この事実は、両社のビジネスモデルに潜む根本的な違いを浮き彫りにしています。
本記事では、フェラーリとフォードのビジネスモデルを比較しながら、変革期における強い企業の条件とは何かを探ります。
電動化時代を勝ち抜くために求められる「新しいビジネス戦略」へのヒントを、両社の動向から考察していきます。
Ferrari vs Ford – 2025年Q1決算データ
2025年第1四半期。
高級スポーツカーを手がけるフェラーリ(Ferrari)と、米国の大手量産メーカーであるフォード(Ford)。
この二社は、売上規模も販売台数もまったく異なるにもかかわらず、純利益は驚くほど近い水準となりました。
- Ferrari:純利益 4億1200万ユーロ(約444百万ドル)
- Ford:純利益 4億7100万ドル
台数にしてFerrariはわずか3593台、一方のFordは97.1万台という膨大な差があるにもかかわらず、です。
この事実は、単なる「売上高」や「販売台数」では測れない、ビジネスモデルの根本的な違いを浮き彫りにしました。
本記事では、両社の違いを整理し、変革期にある自動車業界で今後企業が取るべき方向性について問題提起していきます。
2025年Q1決算データ(表)
項目 | Ferrari | Ford |
---|---|---|
売上高 | €1,791百万 (約$1,930百万) | $40,700百万 |
売上高成長率 | +13% | -5% |
純利益 | €412百万 (約$444百万) | $471百万 |
純利益成長率 | +17% | -64% |
営業利益率 | 約29%(EBIT) | 2.5%(Adjusted EBIT) |
販売台数 | 3,593台 | 971,000台 |
FerrariとFord:ビジネスモデルの根本的違い
まず、両社のビジネス構造の違いを表にまとめます。
項目 | Ferrari型ビジネス | Ford型ビジネス |
---|---|---|
販売単価 | 非常に高い(約50万ドル) | 中価格帯(約4万ドル) |
利益率 | 高い(営業利益率30%以上) | 低い(営業利益率2.5%) |
販売台数 | 極少数(年間約1.5万台) | 大量生産(年間数百万台) |
生産戦略 | 生産台数を意図的に制限し希少性を維持 | 大量生産でコストを削減し、普及を目指す |
マーケティング | 広告なし。ブランド力のみで需要創出 | 巨額の広告宣伝費に依存 |
顧客層 | 世界中の富裕層 | 中間層〜幅広い層 |
価格支配力 | 非常に高い。オプションで単価さらに上昇 | 限界があり、競合との価格競争を強いられる |
この表から明らかなように、Ferrariは「数ではなく質」で勝負しています。
顧客層を富裕層に絞り、超高価格でも受け入れられるブランドを築くことで、販売台数が少なくとも莫大な利益を生み出す構造になっています。
一方のFordは、規模の経済(大量生産・大量販売)を前提に、薄利多売で利益を積み上げるモデルです。
しかし近年は、広告費、リコール対応、EV開発費の高騰などにより、このモデルが限界に近づきつつあります。
電動化と新興勢力:変革期に直面する自動車業界
2020年代後半、自動車業界はかつてない大変革期にあります。
- 電動化(EVシフト)
- 中国メーカーの台頭(BYD、NIOなど)
- ソフトウェア重視のプラットフォーム競争
- 原材料価格の高騰
- 世界的な需要の下振れ
これらの要因によって、既存の大手自動車メーカーも例外なく苦しんでいます。
Fordも例外ではありません。
2025年Q1、FordのEV事業(Model eセグメント)は大幅な赤字を出し、さらに米国政府の関税強化により通期EBITが最大15億ドル減少する可能性も警告されています。
大量生産・大量販売を前提にしたモデルは、コスト上昇・競争激化の前では弱さを露呈するのです。
なぜFerrariは電動化の時代でも強いのか
そんな中、Ferrariはほぼ唯一、環境変化に左右されず、堅調な利益を維持している存在です。
その理由は明白です。
- 顧客は富裕層であり、景気後退や原材料高騰の影響を受けにくい。
- 販売台数を制限して希少性を演出しており、価格を引き下げる必要がない。
- 車両一台あたりの利益率が非常に高いため、少数でも利益確保が可能。
- ブランドの神話性により、電動化後も「Ferrariを持つ」こと自体が価値になる。
つまり、需要にかかわらず、一定数が必ず売れ、しかも高額で売れるビジネスモデルがこの時代でも強みを発揮することが証明されたのです。
実際、Ferrariは2026年に初の完全EVモデル「Ferrari Elettrica」を投入予定ですが、それでも販売戦略の基本方針(希少性重視)は変わりません。
「数」ではなく「価値」で勝負するアプローチを徹底しています。
Fordはどう変わるべきか
一方のFordは、この厳しい環境下で再定義を迫られています。
- EV市場でのブランド力確立(単なる価格競争からの脱却)
- プレミアムセグメント(高単価車種)への再注力
- 商用車(Ford Pro)など強み領域の深掘り
- 無駄な大量生産からの転換(需要に応じた柔軟生産)
Fordの中でも、高収益を生みやすい領域(F-150 Lightning、Transit EVなど)にリソースを集中させ、
「数の論理」だけでなく「価値の論理」も取り入れていく必要があるでしょう。
まとめ:これからのビジネスモデルに問われるもの
今回のFerrariとFordの比較から浮かび上がったのは、
「これからの時代、単に数を売るだけでは生き残れない」
という厳しい現実です。
- ブランドの強さ
- 希少性の演出
- 価格支配力の確保
- 価値を中心にした事業設計
これらが、変革期の勝者になるために不可欠な要素となっています。
Ferrariはそれをすでに体現しており、Fordをはじめとする他の量産メーカーが、
どこまでこの本質的な転換に挑めるかが、今後の業界地図を大きく塗り替えるでしょう。
これからも、両社の動向と、自動車業界の新たな潮流に注目していきたいと思います。